第二章 偽りの告発

別のページには、首相夫人が夜な夜な飲み歩いている、という記事があった。これもほんとうかどうかわからない。ほんとうだったとして、それがどうした、という話である。

首相夫人は先王の姪にあたる人で、以前、婦人雑誌に載っていた記事を読んだことがあるが、あまり好意的に書かれていなかった記憶がある。

この新聞記事でも、カジノで一晩六百万貫もすったことがあるとか、夫人が持っているハンドバッグはすべて外国製で、中には百万貫もするものがあるとか、ほんとうかどうかわからないが、いかにも庶民の反感を煽(あお)るようなことが書いてある。

首相夫人にしても、内務大臣の夫人にしても、経済的には恵まれて、夫の地位のおかげでいろいろいい思いもしているのだろう。でも、常に持ち物から立ちふるまいまで人に見られ、世間に悪口を言いふらされるのはいやだなーと思った。

母がよく、自分に言い聞かせるように、「楽な人生はない」と、つぶやいていたのを思い出す。

また別のページには、フルグナの共同農場の記事があった。「輝きの中の彼らの時代」という見出しである。わたしは眉根を寄せて、紙面をじーっと眺めた。

記事によると、フルグナの農民たちは地主に気がねすることもなく、小作料を払うこともなく、作物を安く買いたたかれることもなく、豊かに暮らしている。

農民たちの表情は明るく、目はきらきらと輝いていて、仕事の達成感や、よりすばらしい未来への希望で満ち溢(あふ)れている。雉斉の農民が絶望し、疲れ切っているのとは大ちがいだ、ということだった。

ほんとうかなぁ。どうも嘘っぽい記事ばかりだな。

そういえば美奈子は、フルグナでは農場も工場も会社も、すべて国の財産、つまりみんなの財産で、そこから出た利益は、労働者に公平に分配されるのだと言っていた。

公平というのは、労働に応じた公平さなんだろうか。それとも結果を公平にするということなんだろうか。美奈子は、みんな同じ水準の暮らしをしているようなことを言っていたが。