第二章 偽りの告発

敬明と別れた帰り道、わたしはあることを思いつき、遠まわりして図書館へ行ってみようと思った。『告壇』を見たかったのだ。

わたしは婦人雑誌以外は読まなかったが、学校へ通っていた頃は、たまにだが、図書館で本を借りて読んでいた。新聞はまともに読んだことはないが、なにが書いてあるかぐらいはわかる。たぶん。

 

図書館へ行く途中、広場で男の人たちが集会をしているのを見かけた。労働者の集会らしかった。『勝手に賃金を下げるな』とか、『雇用を守れ』、『労働者は部品じゃない』という立て看板があった。

いつだったか美奈子に誘われて、わたしもこうした集会に二度ほど行ってみたことがある。

はじめのは、労働者の集会だった。

「労働者や農民がこんなに苦しんでいるのは、政治が腐敗し、資本家が利益を貪(むさぼ)っているせいだ。社会を変えれば、貧しい人たちは救われる」

ということを主張していた。はっきりとは言わなかったが、社会を変えるというのは、つまり、全統主義の国にするということだろう。

理屈としてはわかるのだが、わたしは、自分の人生が不幸なのは社会のせいだ、という考え方には馴染めなかった。わたしが教えられ、信じてきたこととは、全然ちがっていたからだ。

全統主義の考え方なのか、都会風の考え方なのか知らないが、苦労に耐えて努力することを、暗に否定しているように思えなくもなかった。

それに、演説していた大鷲(おおわし)という中年男性の顔の色艶が、やけにいいのも気になった。着ている作業着はいかにもくたびれていたが、それがなんとなくわざとらしかった。

この人、ほんとうに労働者かな? じつはかなりいい暮らしをしてるんじゃないかな、と思った。いかにも熱を込めてしゃべっていたが、どこかうさん臭かった。