赤煉瓦造りの図書館はすべての窓が開け放たれていて、白いカーテンが揺れたりふくらんだりしていた。
わたしは受付で、九月分の『告壇』を綴じた冊子を出してもらった。
そこそこ混んでいる館内で、わたしは空いた席につき、新聞を適当にバサバサめくって見出しを眺めた。政治家や貴族、俳優のスキャンダルが目についた。
わたしは今週の号を、後ろからめくっていった。
内務大臣が冷酷非道、という元秘書の告発記事があった。
新聞の字は小さく詰まっていて、漢字も多く、とても一行一行読む気はしなかったが、なにが書いてあるのかは見えた。
元秘書によれば、内務大臣の北園邦臣(きたぞのくにおみ)は気難しい冷酷な人間で、ささいなことで激高するため、事務所を辞める者が跡を絶たない、ということだった。
それに、なにやら不法な収入や支出がある、というようなことがほのめかしてあった。また、夫人はいかがわしい宗教にはまっていて、虫を食べている、というおまけまでついていた。
この元秘書の話はほんとうだろうか。有名人のスキャンダルというのは、どこまでほんとうなのかわからない。
いや問題は、この元秘書の話がほんとうかどうかではなく、こんなことを新聞にペラペラしゃべるような人を、大臣が秘書として雇っていたことだろう。
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次回更新は6月6日、11時の予定です。