イチローの大記録に寄せて
(七)
ホームランの分野では世界の王貞治が通算本塁打数868本と俄然群を抜いているが、アメリカ大リーグでは755本のハンク・アーロンがこれまでのベーブ・ルースの記録714本を抜いて現在トップである。王監督との差は実に113本もある。
考えてみればこの王監督のホームラン本数もとてつもない数字で、過去大リーグの投手部門で作ったサイ・ヤング(サイ・ヤング賞で有名)の通算勝利511勝と並んで、将来先ず破られることはあるまい。
ここで前記に後述すると言った件について触れるが、ホームランや打点あるいは投手の勝利数などは凡て積み上げ計算で、一度達成すると減ることがないということである。
しかし、こと打率となると、当たり前のことだが、その日の安打数如何によって率は激しく上下する。
打者で言えば、年間打率3割を越えれば一流と言われる。単純計算して平均3本に1本打てば3割3分3厘で、打者としては高打率である。それが3割7分、8分台となれば、これはもう未知の世界に入る。3割3分3厘も打てば好打者と言われ、100%合格点が与えられる。
しかし、7分台、8分台を維持するためには、3本に1本では率はぐんぐん下がっていく。少なくとも4本に2本か、5本に2本ぐらいの割合で打たなければ維持できない。
仮に二、三日4の0、5の0(0をタコと言い、4タコ、5タコと言う)が続くと打率は忽ち急降下する。然もそれを取り戻すためには、その後これまでの3割7、8分を打っても元に戻らないのである。アベレッジ(平均)とは実に過酷なものである。
例えば極端な話、シーズン初めの四月に月間3割9分打ったとしよう。しかし、それ以降シーズンが終わる九月まで4割キッチリ打ったとしても、年間打率4割には届かない。これがアベレッヂの数学上の冷酷な鉄則なのである。
だが、この鉄則に敢然と立ち向わなければ4割という大記録は生まれない。4割の打率の達成が如何に困難であるかがこれで理解できよう。