「薬学部よ、薬で人を助ける仕事をしてみたいと思うの」

「そうかあ、お互い頑張ろうぜ」

二人は、連絡先を交換した。史は、薬剤師の資格を取得するために、六年制の薬学部に進学した。座学だけでなく、病院実習や薬局実習を控えて、全力で学業に取り組む史は、知之と楽しく過ごす時間的余裕を持てないでいた。二人を繋いだのは、メールの交換である。

「史、嵐山の紅葉はものすごい綺麗だ。中学校に近い池のほとりの赤・黄・緑の風景を思い出した。ぐっときたぞ! 一緒に見れなくて残念!」

「史、大徳寺の精進料理はお勧めだ、今度一緒にいこう」

「うまいだんごも見つけたぞ、史がかぶりつくとこ想像して笑ろてしもた」

知之からのメールには、美味しい食べ物や綺麗な景色についての記述がほとんどだ。〈学問はどうなってんの〉と気にはなるが、それにも増して知之の思いやりが心に平安をもたらした。

以前、京都の風情や人々の営みや歴史を深く知りたいと知之に話したことがあるからだ。史は知之からの文面で、古都の季節の移ろいや食文化、神社仏閣の佇まいを思い浮かべることができた。

折々に知之から届けられるその心地よい時間によって、疲労困憊という暗闇に迷い込むことなく、薬剤師という星を目指して進むことができている。

知之は、史よりも二年先に卒業し大阪の大手酒造会社に就職した。