春彦には、このソファーの軋む音が、時に郁子の心の叫びのようにも思えた。そこに重くのしかかる自らの罪深さを感じつつも、むしろその悲劇的な響きに同調させるように自身の心を酔わせた。
カーテンの隙間から差す西日に縁どられる亜希子の肢体は、無駄一つなく丹精して形作られた彫像のようだった。
余りにも美しい肢体を持ち、青春の象徴として憧れてきた亜希子という存在はどこか非現実的で、春彦にはこの郁子の悲鳴にも似たソファーの軋む音だけが、どうしようもないほどに冴えた現実だった。
その現実の中に亜希子を際立たせたい余りに、春彦は気が付けば郁子相手では考えられないほど激しく亜希子を抱いていた。
そこには感じたこともないような、興奮と快楽が潜んでいた。時に亜希子と郁子とを混同しながらも、そこから一人の男としての春彦が亜希子を掘り起こす行為の最中にあって、背徳的な行為がこんなにも興奮を呼び起こすものだと春彦は思ってもいなかった。二年間の飢えに耐えてきた自分にその所業がこんなにも容易く腑に落ちる、その事実にただただ驚くばかりだった。
何故、もっと早く亜希子に触れてやらなかったのかと惜しく思えるほど、ただのオスに落ちぶれた自分の行為に、春彦は嘆くどころか咆哮をあげたいほどの喜びを感じていた。