(2)心理的負担
抗がん剤治療を受けるための通院がもたらす心理的な負担も見過ごすことはできません。
「明日は抗がん剤治療のための通院日だと思うだけで気持ちが落ち込む」という患者さんは決してまれではありません。また、「抗がん剤治療のために病院に行かなければと思うだけで吐き気がする」(これは「予期嘔吐」と言います)という方もいます。
もちろん、治療を受けて少しでも良くなりたい、治療を受けていないと不安だから、という理由で、逆に抗がん剤治療を待ちわびるという患者さんもいます。でも、遠足を楽しみにしている小学生のような気分からは程遠いのではないでしょうか。
(3)通院の負担
今でも忘れられない、70歳台の患者さんとその奥さんがいます。大腸がん術後の骨転移で車いすが欠かせない患者さんを献身的に介護する奥さんの姿は、ご夫婦の今までの歴史を表しているようでした。遠方にお住まいで、2週毎の抗がん剤治療のために奥さんの運転で通院していました。
ある時、来院予定時間になっても、ご夫婦が来院しません。今まで予約時間に遅れることはなかったのです。昼近くになって、親戚という方から病院に連絡がありました。来院する途中で自動車事故にあったとのこと。詳細は告げられませんでした。
待合室のテレビに映った昼のローカルニュースに心臓が掴まれたような衝撃を受けました。高速道路で普通乗用車がトラックと衝突して普通乗用車が大破、助手席の男性は死亡。運転していた女性はヘリコプターで近くの大学病院へ搬送とのこと。
後で聞いたところでは奥さんも搬送中に亡くなったとのことでした。2週間毎に往復2時間の高速道路の運転は奥さんには負担であったのではと考え込んでしまいました。通院するということにはこのような危険も付きまとうと今更ながら気づかされました。
(4)介護者の負担
一人住まいの患者さんの治療を考える時、50歳台の直腸がん、肺・肝転移の患者さんを思い出します。初めて受診した時点で病気がかなり進行していたため、体調良好とはいえませんでした。
未婚の方でキーパーソン(患者側責任者)は遠方在住の妹さんでした。実際は近くにお住まいの姪・甥が面倒を見ているとのこと。患者さんは抗がん剤治療希望で、2週間毎の通院は姪と甥が仕事を調整しながら車の送り迎えで対応していました。
時には姪や甥の仕事の都合で、治療が1週間ほど先延ばしになることもありました。姪や甥にとっては大変であったと思いますが、患者さんにとっては、面倒を見てくれる親類が近くにいてくれて幸運でした。
最終的には体調が悪化し通院が難しいため、近くの病院での緩和治療となりました。妹さんとの面会もできたと後から聞きました。患者さんは転院した病院で穏やかな時を過ごせたのではないでしょうか。
【前回の記事を読む】がんと診断された治療開始後の患者の生存(サバイバル)期間は6通り