「いらんわ」
「大人さんって眼鏡かけてて白髪の坊主頭だし、このあっちぇーのに、出勤時には、黒いジャケットなんて着てくるんだね」とげらげら笑い出す。
「そうじゃの」
初日でこれはいかんな、と我輩は不快になったもんじゃ。
「足も不自由で、まともに歩けないわけ?」
「差別的な発言はやめたほうがよろしいぞ」
「いいじゃん。事実は曲げらんねーよ」
「黙れ、この無礼者! そういうこと言うとの、お主の誕生日にな、鼻毛つきの鼻くそと、痰入りの赤ワインをプレゼントするけんの」
「きったねぇ」
「他人様を侮辱するのは、してはいけない行為じゃ。お主も母上が大変な目に遭っておるわけじゃし、他人様を愛する行為を心がけ、オブラートで包んであげればよいのじゃ」
「わかったよ」
「お主は見どころがある。清掃を通じての社会勉強をし、人間的に成長できればよいのう」
我輩たちはお喋りに熱中してしまい、そこにキックボクシング野郎が、恐らく確認のために、顔をのぞかせに来たのじゃ。
「おい、お前ら、いつまで喋ってんだよ。仕事しねーと、頭に蹴り入れっぞ」
驚いた。腕時計を確認すれば、確かにお昼休憩はとっくの昔に終わっておる。申し訳ないと呟きながら、お仕事を再開したのじゃ。幸い、蹴りは入れられなかった。恐ろしい環境に身を置いてしまったものじゃ。くわばらくわばら。