ヨシムは何れそうなるだろうと漠然と考えていたが、いざその時を迎えるとがっくりとし、マサイは目に涙を浮かべ顔を歪めていた。ベッドへ近づきサドルの顔を見ると苦しさから解放されて落ち着いた顔をしていた。
ヨシムはじっと見つめながら長く一緒に仕事をしてきた若い頃からの笑顔が浮かび懐かしく、目から一筋の涙が零れた。ヨシムは殺したやつを必ず探し出し決して許さないと心に誓った。
ヨシムとマサイはサドルに向き背筋を伸ばしビシッと敬礼し身体を曲げて敬意を表した。そして此方を見ている医師達に深々と頭を下げた。
そしてゆっくりとエレヴェーターに向かい下に降りて事務所へ行き、サドルを引き取るために必要な手続きを終えた。サドルの引き取りは今日の夕方で了解を得たので車に戻りホテルへ帰った。
二人は戻ると直ぐハッサムチーフの元へ行くと、警察の後、病院へ行き見舞うつもりのサドルが亡くなり、その時に立ち会えたと報告した。ハッサムはサドルが亡くなる事を覚悟していたのか、「そうか!」と言って遠くを見つめ黙って立っていた。
次に警察で聞いた話を伝えようとするとハッサムは手を上げて止め、「直ぐ副大臣の所へ報告に行こう」と言うと、片手を吊ったハッサム、ヨシムとマサイは部屋へ向かった。扉をノックすると待っていたように直ぐドアが開き応接の椅子に座るように促され、四人が座った。
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