僕と雪女
1 仲馬倶楽部(なかまくらぶ)
「……ん? やばい、アラームかけ忘れた!」
木製ブラインドの隙間から差し込む光がいつもより薄暗いせいで寝坊したのかと思い、僕は慌ててベッドから飛び起きた。
「あれ、そうだ。今日はバイト休みだっけ」
年明け早々に提出しなければならないレポートの準備がなかなか進まないので、店長に頼み込んで三日間の休みを貰ったのだ。
「勘弁してくれよ、聖也(せいや)。イブ前後の三日間はコンビニは稼ぎ時だぜ」
店長は渋い顔だったが、それでもいつも彼のむちゃぶりのシフトに快く従っている僕のたっての頼みを断れずに、なんとか承知してくれた。大きく伸びをしてもう一度ぬくぬくと暖かいベッドに潜りこんだ時、母と妹がドアから顔を覗かせた。
「聖也、今夜あなた時間ある?」
「あるよねえ。お兄ちゃん、ガールフレンドいない歴長いから、イブだって関係ないでしょ?」
「余計なお世話だよ。人のこと言えないだろう、マリリン、お前こそ……」
四歳年下の妹の真理亜(まりあ)は小さい頃から僕には手厳しい。どちらかといえば曖昧な生き方に甘んじている僕を叩き直したいと思っているふしがある。
妹は僕とは正反対で、白黒はっきりつけたがる正義派だ。副キャプテンとして活躍している部活のバスケ以外には全く興味がなく、したがって兄同様ボーイフレンドいない歴が長い。
「で? 何よ。用がないなら寝かしてくれない? 久しぶりの休みなんだから」
「お祖父ちゃんにクリスマスのお料理を届けてあげてほしいの。家に来てもらおうと誘ったんだけど、雪になりそうだから外に出たくないって。それもそうだけどクリスマスディナーに一人は寂しいじゃないの。あなたも一緒に食べてお泊りしてきなさい」
「いいけどさ、ケーキは?」
「今年は健康のためにキャロットケーキを焼いたわ」
「なんだ、でっかいイチゴがのっかったショートケーキじゃないの?」
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