五日後、淡黄色の濁り水が川幅いっぱいに流れ、深さも分からず川底も見えぬ黄河の船上に、船師から瀬の状況や流れの向きの説明を受ける李徳裕がいた。

船尾に目をやると、積荷の陰に船乗りらしき男が一人、船縁にもたれて崩れ散る波に目を当て移り変わる景色を眺めていた。男は顔を隠すように襟元に布を巻き、粗末な衣服を身に着けていたが、他の男達と異なり船上には不釣り合いな華奢(きゃしゃ)な身体つきをしていた。

穆宗の後を継いだのは、宦官王守澄に擁立された十六歳の息子敬宗(李湛(りたん))だった。

年若く何も知らぬ敬宗は、身近にいる王守澄に言われるまま、後見人となる宰相に李逢吉を指名し政を委(ゆだ)ねた。

宰相に返り咲いた李逢吉は、宦官嫌いで王守澄と折り合いの悪い裴度を、宰相職から追い落とし、藩鎮に対する抑藩政策から融和政策に変えてしまった。 

李逢吉は、それまで冷遇されていた遺恨を晴らすため宦官と手を結び、朋友である牛僧孺や李宗閔を呼び戻し、政敵となる李党の官吏をことごとく排除し、自らの派閥で要職を固めてしまった。

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