線香を立てて、手を合わせる。父が亡くなって十三年。

父は、新空港の完成を待たずに五十九歳でこの世を去った。

現市長が政権を握った途端に、父は秘書公聴課から外された。それでも父は、休みの日を利用して新空港の建設現場を訪れていたそうだ。その帰り道、父の運転する車に、旅行で来ていた若者たちが運転する車が衝突──。若者たちは、羽目を外し過ぎたのだ。基準値を超えたアルコールが検出された。彼らは一命を取り留めたが、父は、即死だった。

父の葬儀には、前市長を含め多くの市町議員や同僚の方々が参列してくださった。三百名を超える参列者が、生前の父の人徳を物語っていた。

もし父が今も生きていたならば、今の市政を見て、どう思うだろうか?

軽んじられた上辺だけの言葉たちが、市議場に飛び交う。まるでゴムまりのように──。

「私、もう三十六だし、そろそろ、この仕事辞めようと思う」私の告白に、みんなが驚いた。

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