「彩雲が見えるわよ! 早く上がってきて」
母が興奮気味に僕たちを呼んでいる。僕と父は顔を見合わせ、階段を駆け上がった。ベランダに立ち、空を見上げると、虹色の雲がゆっくりと流れていた。
「キレイね」
母が、うっとりと見惚れている。
「熱帯魚が空で泳いでるみたいだね」
家族三人で行った、水族館の熱帯魚を思い出した。いつも見ていたのは、食卓に上がる青魚や白魚だったので、色鮮やかに光る熱帯魚を初めて見て、虹のようだと感動したのだ。
「光、五歳の誕生日おめでとう」
いつの間にか父と母の目が空から離れ、僕を見ていた。〝おねしょ〟ですっかり自分の誕生日を忘れていた僕は照れながら、「うん」と小さく頷いた。
彩雲を堪能した後、二階のダイニングで、いつもより遅い朝食を済ませた。母は午後の一時から近所のケーキ屋で働いているので、昼過ぎには出かけてしまう。そう考えると僕は落ち着かず、リビングのソファにもたれている母にぴったりと寄り添った。
「今日の彩雲は特別キレイだったわ」
母が呟く。
「ああ、本当にキレイだったな。でも、お母さんのほうがキレイだよな」
いつの間にか父も母の横に腰を下ろしていた。ここでも同意を求められた僕は、「うん、お母さんは、キレイだよ」と、母の膝の上に乗った。
母は、にっこりと笑い頬を赤らめた。高校の同級生だった母と父は大恋愛の末、二十歳という若さで結婚を決めた。
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