「気にするな。お父さんも子供の頃はしてたぞ。光と同じ五歳の頃はしょっちゅうだ。小学校に通う前にしなくなったから、光も大丈夫だ」

父が大きな手で、僕の頭を撫でる。

「お父さんそっくりだから、光もそのうちおねしょしなくなるわよ」

そう言って、母は「今日のお空も元気だな♪ 太陽さんも笑っているよ♪ ふっふっふ~」と、自作の鼻歌交じりに階段を下りていった。その鼻歌を聴くと、どんなに落ち込んでいても不思議と気分が良くなった。

「朝風呂に入ろう」

父は僕を抱き上げると、浴室に向かった。裸になると、母が僕の頭にシャンプーハットをかぶせる。頭を洗う時に、お湯が顔にかからないようにするためだ。

なぜなら、僕は水が怖かった。湯船には緊張しつつもなんとか入ることができたが、恐怖だったのは髪を洗う時だ。顔に水がかかると、暴れて発狂するほどだった。さらにプールは水面を見ただけで、恐怖心で体の震えが止まらなくなる。

この状態を心配した母が、病院に連れていこうとしたが、父も子供の時は水恐怖症で、成長するにつれ治ったと聞き、心配はなくなったようだ。

「光は俺に似て二枚目だなあ」

湿らせたタオルで、僕の顔を拭っていた父が言う。

「二枚目って何?」

僕が首をかしげると、「かっこいい男って意味さ」と、父が得意げに微笑む。

「自分で『かっこいい』なんて言う?」

僕の体を拭こうと、脱衣所で待っていた母が大笑いした。

「俺だけじゃないさ。彫りが深くて整った顔で、モデルみたいだってみんな言ってるよ。光もそう思うよな」

父がむくれて、僕に同意を求める。確かに父は、身長百八十センチで、目は切れ長なのに、はっきりとした二重で鼻筋も高い。

「うん、お父さんも僕に似てかっこいいよ」

腕を組んで言った途端、母の笑い声が家中に響き渡った。お風呂から上がった僕の体を拭いた母は、洗濯物を干しに階段を上がっていった。

父が僕の髪を乾かしていると、三階のベランダから母が何か叫んでいる。ドライヤーの電源を切り、父と二人で耳を澄ます。