第一章    今生の別れ

青い空を眺めていると、いつの間にか僕は、雲の上で浮いていた。見下ろすと、真っ青な海が広がっている。空も海も綺麗なのに、急に不安になった。

「お母さん」

僕は呟き、母を捜そうとその場を離れようとするが体がいうことを聞かず、ただ浮いているだけだった。

「お母さん!」

今度は大きな声で母を呼んだ。すると突然、空が赤くなり、僕は真っ逆さまに海に向かって落下した。体中に針が刺さったような感覚を覚える。痛みはないが、皮膚も肉も散り散りになり、骨だけになるのではないかと思うほどのスピードだった。恐怖で声が出ず、心の中で何度も何度も、母を呼び続けた。  

二〇〇一年十二月二十四日 

「光(ひかる)、光」

目を開けると、母が僕を呼んでいた。

「こんなに泣いて、怖い夢でも見たの?」

母は水色のシャツの袖で僕の涙を拭いながら、心配そうに問いかけた。僕は小さく頷いた。起き上がろうとすると、腰から下に違和感があった。お尻に手を伸ばし、もぞもぞしていると、

「しちゃったの?」と母が布団をめくる。

いつの間にか後ろにいた父も、「しちゃったか」と、苦笑しながら僕を抱き上げた。

「おお、世界地図みたいだな」

〝おねしょ〟の跡に、父が感動している。

「この前は日本列島だったわよ」

母がシーツを引き剥がしながら笑った。

「ごめんなさい」

僕は蚊の鳴くような声で謝った。