一方、イタリアは日本よりもずっと過酷な状態にあり、戦後も不況に喘いでいたということをこの時察した。私は高校生になってから社会科で世界史を学ぶことになるのだが、イタリアは第一次世界大戦時から既に経済政策に行き詰まっていたことを知った。私自身、いかにその国の影の部分を見ようとしなかったのか、その罪悪感は今でもたまに私に付きまとっている。
だが私の冒険は始まったばかりだ。ゴミ問題や物乞いも気になるが、それらをひっくるめて真新しい世界を自分の目で見なければならない。ナポリは午後観光することになっており、この後一行はバスを降りてフェリーに乗船、カプリ島に行くことになっている。天候が良ければ青の洞窟も見られるというスケジュールだった。
だがここでハプニングが起こってしまう。ナポリからカプリ島に向かうフェリーで、船酔いしてしまう人が続出したのだ。私がイタリアに行く前に読み込んでいた旅行記ではカプリ島に向かう船内で作者一行は絶景を満喫していた。それなら私たちも…という夢は早々に潰えてしまった。
私自身はいわゆる最悪の事態にはならなかったが、カプリ島に到着する頃には「青の洞窟、無理かも…」という声もちらほら聞かれた。実際、風が強いので青の洞窟ツアーは中止となった。あれだけ船酔いする人がいれば当然の結果だろう。今回はむしろこういう結果で良かったのかもしれない。
頂上付近に向かって歩きながら酔いを紛らわせた方が、健康上、そして精神衛生上良いだろう。こうして大人数のツアー団体は、実際あるのが信じられないというほどの自然美を見る代わりに、美しい島、カプリ島の景色を満喫することになった。
カプリ島は本当に不思議な島だとその時は思った。イタリアで有名な島といえばシチリア島が真っ先に思い浮かぶだろうが、カプリ島はシチリア島と全く違う。こぢんまりしているが、島に住んでいる人たちは活気に満ちている。観光客用に用意されたであろうケーブルカーはあるが、基本的には地元の人たちが暮らしやすいように設計されていると言っても良いだろう。
名物だというレモンは見えなかったが、実際はもっとたわわに実っていたはずだ。特産のレモンに合わせて島の外観を観光客にも受け入れられるよう雰囲気を合わせたのではと思ったほど、訪れて良かったと思える場所の一つになった。
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