話を戻します。医学部入試における女子受験生と多浪生へのバイアスは当時、医学部予備校で進路指導をしている者なら肌で感じていたものでした。受験指導の現場では「A大学はやはり現役の男子は受かりやすいね」や「3浪の女子か。B大学を受けるなら、よっぽど1次試験で点を取らないとね」という会話が日常の会話でなされていました。

しかし、この状況はやはりおかしかったのです。

医学部の受験指導の界隈で当たり前としていた事項でも、一般受験生にとっては「聞いたこともない」ことであったり、医学部進学者の少ない高校の受験指導の教員にとっては「ありえない。信じられない」という印象を持つのは当然です。世間一般からも「医学部受験の闇」といった評価を下されました。

やはり医学部受験界という一種のカプセルのなかで私をはじめ受験界全体の感覚がマヒしていたのです。

あえて少し弁解をすると、私は「とにかくうちの生徒を合格させたい」という気持ちしかありませんでした。現実がこうした状況なので、そこに焦点を当てて問題提起をして改善を図る、のではなく、こうしたバイアスを暗黙の了解事項、仕方のないこと(=当たり前のこと)として受け取り、その上を行く合格の対策を練ろう、と考えていました。

つまり、「A大学には現役生を積極的に受験させ、多浪生は受けさせない」とか3浪以上の女子には「B大よりC大をお勧めします」といった指導をしていました。

先述の不正入試が公になると、世間から厳しい目が向けられ、裁判も起こされたりしました。大学側も、「不適切」であったことを認め、追加合格者を発表し(順天堂大学48名、東京医科大学44名、日本大学、北里大学は各10名など計145名)、2019年度の入学を認めるなどの対処をしました。

文科省は「医学部医学科における不適切な事案の改善状況等に関する調査結果(2019年6月25日)」のなかで、先の9大学に「改善」が見られたとの結果を出しています。

では、不適切入試は完全になくなったのでしょうか?

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