私は、『すごく上手な人』という言葉を使ってしまったことを悔やんだ。自分自身を上手だと思っているから『上手な人』に余計な形容詞を付けてしまったのだ。一体彼女は、私の言葉をどうとらえただろう。
彼女は、打つ方向に向かってボールの後ろに立ち、目標地点をアイアンで指した。それから打席に入り素振りを1回した。クラブフェイスをボールに合わせ、間をおかずにスウィングを始める。一つ一つの動作が、流れるようで見ていて心地よい。スウィングのリズムもよい。ボールを打った後にクラブが加速していって、高い位置でフィニッシュを迎える。
本当に女性のボールかと思うような打音だ。しかしそうは言っても、女性の打つボールだから、自分よりは距離が出ない。ヘッドスピードが自分のほうがあるのは確かだ。自分が5番で約180ヤード飛ぶのに対し、彼女は155ヤードほどだ。それでも5番アイアンを使うことができるというのは、すごいと思う。
これで、自分と同じに飛んで、正確に目標をとらえたらトーナメントプロだ。私はこんな人と、友達かそれ以上の関係になれたらいいと思った。
本当は、話しかけたいと思うのだけれどそうできないことがある。後ろの女性に馴れ馴れしい奴だとか、しつこそうな奴だとか思われたくはない。ただの女性の友達なら、気安く話す自分なのだ。これまでにも、ここの練習場で、男女に関係なくいろんな人と話をして、知り合いになった。
しかし後ろの彼女はなんか特別だった。こんなこと考えていると、彼氏がいるかもしれない女性を好きになりかけている自分が危ないと思った。きっと、すごい美男子が、後から迎えに来たりして。失恋ではないけれど、がっかりする羽目に陥ったりすることを想像する。
その後、私は100球ほど打った。今日は、全てのボールに集中し、コースで打つのと同様に打った。ミスして思わぬ方向へ飛んでいっても、あたかもそこを狙ったかのようにフィニッシュを決め、ボールの行方を目で追った。この技術が、「練習場プロ」とニックネームをもらっている所以(ゆえん)である。
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