お父さんへ
お父さん、おへんじありがとう。
今日は、8はんのみんなで学校にのこって、アンサンブルのれん習をしました。ふえのリーダーのみうらさんがやさしくおしえてくれたので、いつもまちがえるところが、まちがえないでふけるようになりました。
もし、明日もうまくできたら、先生に発表しようとみんなとやくそくしました。そのときは、お父さんがおしえてくれた、きんちょうしないおまじないをやってみます。だいちゃんなんかに、負けません。でも、それは、だいちゃんとけんかをするとか、そういうことではありません。
ぼくは、ぼくに負けないように、がんばります。くやしい気もちや、かなしい気もちに負けないように、がんばります。お父さんがいつも近くにいてくれているような気がするから、ぼくはだいじょうぶです。
十月二十一日 結城まこと
僕がお父さんへこの手紙を出した翌日、美春先生に発表した僕らの班のアンサンブルは、大成功した。
「合格!」
美春先生が笑顔で作ってくれた丸印を見て、僕ら八班の皆は、やったー、とハイタッチをして喜んだ。
「やっと合格したから、今日は練習じゃなくて、外で遊ぼうよ」
僕の声かけで、放課後に八班の皆とグラウンドに出て遊び始めた。そんな僕らの様子を見て、三組の他の子たちも仲間に加わってきて、その日は皆でかけっこや氷おにをして遊んだ。久しぶりにたくさんの子が集まって遊んだこの日を境に、
「まことくん、今日も皆で遊ばないの」
「また、ドッジボールとかしようよ」
僕にこんなふうに話しかけてくれる子が増えていった。元気を取り戻し始めた僕のまわりには少しずつ友達が戻ってきた。人を変えることは大変だとお父さんは言っていたけど、きっと、自分が変われば人も変わるんだと、僕は僕なりに理解した。
また皆と仲良く遊べるようになって、よかった、そんなふうに僕が何か大きな壁を乗り越えたような達成感を感じていた矢先、あの事件は起こった。
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