可能性はゼロではありませんね、と貝崎は口にする。

「まさか……! 落ち着いているように見えたのは、研修で何度も訓練されていたからだと思います。緊急時の対処法やガイダンスは徹底的に覚えましたし……私だってもう何が何だかわからないですよ、だいたい、バイト先を滅茶苦茶にする意味なんてないじゃないですか」

「私も訓練しているからよーくわかりますよ、滝口さん。いくら鍛錬を積んでいても、本番で訓練と同じパフォーマンスを発揮できることは滅多にない。あなたは不具合など起きるわけがない観覧車で、かなりの訓練を積まれたようだ。

……つまり、あの巨大観覧車『ドリームアイ』には欠陥があった。あなたはスタッフとして働いている内にそれに勘づいていたが、それを誰にも言わなかった」

「観覧車に欠陥……? 違いますよ、そんなの。もしあったとしても私は気付いてないし、気付けるわけがありません……!」

「そうですかねえ。高偏差値の工学部に入学できたエリートさんが」

「やめてください!」

「あなたは、欠陥に気付いていたにもかかわらず報告しなかったことに怖くなって、観覧車ジャックと言い出した。違いますか?」

「……ありえないです。観覧車ジャックのことは、私が言い出したわけじゃないです。ゴンドラに乗っている人と連絡が取れた時、その人が言ったんです」

「ほうほう、そこら辺を詳しくお聞きできますか? 事態は一刻を争うので、とりあえずは簡潔でも構いませんが。その乗客と面識は?」

「あります。ゴンドラに乗る際に一度だけですが」

【前回の記事を読む】最新型の観覧車。ゴンドラの落下は「ありえない」とスタッフは断言…

 

【イチオシ連載】【絵本】生まれたばかりの子犬に向けられた言葉「2匹か、少ないな」

【注目記事】妊娠を報告した後、逃げるように家を出てしまった彼。意を決して連絡してみると…