五 午後……十二時四十分 ドリームランド内社員食堂

「あ、はい」

男の内ポケットから取り出された警察手帳に、滝口は慌てて立ち上がる。

「失礼ですがあなたは?」

貝崎は宮内の方に顔を向けた。

「あ、僕、システム運用部の宮内って者です。ドリームアイの運行業務の担当ですね」

「ああそうでしたか。こちらもまだ主要スタッフを把握できずにいるんです。あなたにもお話を伺うことになります。それまではここで待機していてください」

「待機ですか~。じゃあなんか食べてますね。でも、早めにドリームアイの管制室に戻して欲しいんですけど。本社からの連絡が凄いんですよ。でも、今何も調べる権限がないじゃないですか、困ってるんですよね」

そう言い残すと、宮内は席を立って場所を貝崎に譲った。滝口の向かい側に座った警察官は、口調とは裏腹の偉そうな態度で腕を組んだ。

「さて、改めまして滝口美香さん。こんな事態になって混乱しているでしょうが、我々も気持ちは同じです。長く刑事をやってるが、観覧車ジャックなんて初めてですから」

「はい、そうですよね」

滝口は、息を吐くのとほぼ同時に硬くなっていた肩の力を少し緩めた。

「おや? じゃあ認めるんですか。今回の事件が、事故ではないということを」

「えっ……いえ」

「じゃあなぜ観覧車ジャックなんて物騒なことを言ったんですか? 悪ふざけでは済まされない、捜査攪乱ですよ」

貝崎は強めの口調で問いただし、滝口は言葉を詰まらせた

「それは……」

「滝口さんは大学生だそうだね、しかも女性ながらに工学部在籍ときた。実に優秀だ。だが、事の重大さがわかっていないようですね。これはゲームでもドラマでもない、現実に起きている出来事です」

「わかってます……それは。わかってますから……」

滝口は、繰り返すように早口になりながら声を発する。

「わかってる? そうは思えませんねぇ。絶対に安全だといわれていた観覧車が動きを止め、ゴンドラが不意に落下し、地上は予想だにしないほど混乱している。そんな真っ只中、観覧車ジャックと言い切るとは普通じゃないでしょう。事態を更に混乱させる可能性大。

一方であなたの同僚は、あなたの緊急時のアナウンスがとても冷静だったと言っていましたよ。では、なぜそんなに落ち着いているんでしょうか?」

貝崎は足を組みながら滝口に問う。

「待ってください、私が何かしたって言うんですか? まさか、疑われてるってことですか?」