第4章 合目的的なる世界

第1項 合目的

1 偉大なチェス盤

ひと度目的を立ててしまえば、競争が始まる(ゲーム、スタート♪)。ゲームとして成立する領域に入れば、玉(ぎょく)を最善・最短・最速で詰ませる様に、人工知能はあらゆる領域で合理的かつ一義的な解を出す。

いち早く物事の不備に気付き明快で実利的な目的を立てた者が、この革新的なテクノロジーをふんだんに用いてそこから生じる利益を総取りする。目的を達成する為のプロセスが以前とは比較にならないほどに正確、安価かつ迅速だからだ。必要なモノさえ見つかれば、供給量も膨大だし、供給地点は量産できるし、管理・供給は安定的になされ、そのコストは人も物も安く済む(田舎の大通りにたちどころに乱立した大型ディスカウント・ドラッグストアを思い浮かべれば良い)。

テクノロジー革新期には、旧来のやり方を誠実に実直に勤勉に行っていても、それはまるで殆ど評価されないし、競えば殆ど必ず、敗れる。そして旧(ふる)い衣を脱ぎ捨てるように価値観を一新した者が、圧勝する。“勝ち組・負け組”という、殺伐(さつばつ)とした言葉による峻別を現ぜしめたのもそれである。

人工知能という人智を超えた性能を作動させるための条件としての目的を有効に立てることが、即ち利益を産むことだ。プロセスの解決者が現れた今、目的が価値なのだ(反動による当然の事理として、プロセスの補助者、つまりは現場で働く者には殆どペイされない)。

消費者も、検索を通じてモノを発見する以上、他と分(わ)かつ、商品に分かりやすい目的を必要としている。物事は目的化される。目的が設定されれば直ちに洗練される。

洗練されるとは、茶室に無駄なものが置かれていないように、余計な要素がない状態のことだ。洋服を科学的効用の観点から捉え直すとか(あぁ、付加価値!)、年頃の男女が待ち合わせなしに安全に知らない人と出逢える様にするとか、お茶を飲んで痩せるとか、自分に害が少量で他人に無害な喫煙とか、風流に安く泊まれる場所を提供するとか、田舎で科学的に健康的な暮らしを実現するとか、目的は様々だ。

何となく他の商品よりは美味しいペットボトルのお茶とか、店員さんの感じがよい定食屋とか、提供するモノの背景の目的がボヤけたものは淘汰される。曖昧なのんびりとした雰囲気すら、例えばハンモック・カフェの様に、目的として明確化される。

目的は一義的で、その目的達成の寄与度を数値化出来るものが望ましい(○価格ドットコム、×接客ドットコム、×雰囲気ドットコム)。雄たる大企業は一見曖昧(あいまい)なコマーシャルを打ちながら、旧来なかった新たな商品形態を目的として明確化し、システムを確立し、満を持して市場に送り込んでいる。

“~に特化する”という言葉が先導する。資本力に劣る小規模経営者は、己の技術を一点に集約し、より一層に目的を明確化し、己の存在意義をアピールしなければならないが、その成功者は表彰的に『プロフェッショナル』で紹介される。我々がその様に、常に明確に物事に目的を設定し、一丸となってバラバラにその達成を目指すとき、成立する物事は全て、ゲームになる。

成立する物事の総体である世界は、ゲーム盤になる。目的を共有する人々は、きびきびと合理的に動き、駒として働く。盤上にあるのは、駒のみである。世界は巨大なチェス盤になる。