男の番が来ると、入国管理官はパスポートを開いて男の顔をじっと見つめたが、おかしなところはなかった。男は無事にゲートを通り抜けた。

男は荷物の受け取りレーンに進んだが、受け取りの荷物はないらしく、そのまま出口に進んだ。男の緊張はそこで最高に達したかに見えたが、誰も男を迎えに来てもいない代わりに咎める人間もいなかった。男はもはや周りを気にすることもなく、足早にその場を立ち去った。

その日の夜、空港で見掛けた男はミラノのスフォルツァ城にいた。

ミラノはロンバルディア平原に開けた都市で、ミラノの城は周囲を濠で囲まれた平たい城である。城門の上には蛇が赤ん坊を吞み込む有名な紋章が付いている。濠には水はない。城の後ろは広大な公園になっている。

夏至が近く、サマータイムのせいもあって日没が九時半近くと遅いので、人に見られずに会うには午後十時過ぎにならないといけない。

男はどこで調達したのか、白地に黒の縦縞の入ったミラノファッション風のシャツに着替えていた。パンツとジャケットは空港に着いた時と同じものを着ている。

男が会う相手も人には見られたくない商売をしている。彼らは木のこんもり茂った物陰で、人目を避けるようにこっそりと顔を合わせた。

彼らはイタリア人に分からない母国語で会話を交わした。相手の男は品物を空港の男に見せた。どうやら外国製の小型拳銃だ。空港の男は銃を手の平に載せて重さを量り、それから真っ直ぐの位置で構える動作をした。