その男のがっしりした肩幅は造型的で、上背があった。不意に彼が現れたことで、何か一つの陰影を帯びた焦点が発生し、快い新鮮な緊張感が生じた。
『平田造園 庭師 日置英二』という名刺が、それぞれに渡された。これも少し妙だった。
「日置と申します。いつも武内さんにはお世話になっております。今回、こちらの中庭の方を何とかしろということで、お伺いしました。思い切って、かなり変えてしまえということなのですが」
庭師は白い歯を見せて笑った。
「ええと、まずは、皆さんのご意見を聞けというのが、武内さんのご要望なのですよ。ウチの社長経由の話なんですけど。今回は、一般的な庭作りの型にとらわれないで、ぜんぜんいいからと。私としては、まずその辺のヒアリングをしてからと、思いまして」
「ヒアリング?」
黒崎耀子が、とぼけたように聞き返した。
「ええ。皆さんの描かれているそれぞれのイメージがありますから。そのイメージを重視しろというのが、武内さんからの指示だということなのです」
エキゾチックな風貌の庭師は、白い歯を見せた。
「いい家主さんじゃないか」袋田マス江が、片方の耳を小指でほじりながら笑った。「単なるヒヒジジイじゃないわね」
「ヒヒ爺い扱いしてるのは、袋田さんじゃないの。……でも、ヒアリングっていったってさ」
店主が不安げに口を挟む。
「あたしらの意見も、入れるんだろ?」とマス江。
「そりゃあ、それでいいんだけど」
睦子ママは、不満そうに顔を曇らせた。
「まあ、とりあえず、ざっくばらんに、聞かせてもらいますよ」
微笑した男の声の発する声は柔らかく割れ、女たちのささくれだった感情を撫でるような、心地よい響きがあった。
窓の外の通りには、平田造園の名が大きく書かれたワゴン車が停められていた。次第に暑くなり、ボンネットがまばゆい銀の光を放っている。
その手前を廃品回収車が、おきまりのアナウンスをしながら、ゆっくりと徐行してゆく。街路樹の樹影が、フロントガラスを撫でてゆく。
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