第一章 新しい家族

吹奏楽部

客席に戻って、ぐったり椅子に沈んだ。隣に安藤君が座った。

「どうだった?」顔を寄せて小さな声で訊いてきた。

「課題曲の最初の所、音が出なかった」小さな声で答えたら、

「膝ががくがくして立っているのがやっとだった。バスドラのばちが汗で滑って落ちそうだった。先生に注意されたことなんてみんな忘れて真っ白になった」耳に顔を寄せて囁いた。

二人でため息をついた。演奏の合間に、客席で聴いていた一年生と卒業生が、結構いいできだったと話していたけど、僕は座席の背もたれに埋もれて忍者みたいに消えたかった。

最後の出場校の演奏が終わり、結果発表の時間になると、客席のあちこちの歓声で大騒ぎになった。学校名のあとに金賞と言われれば県大会に出られる。演奏順に発表され、僕たちの番が近づくと、女子の部員は両手を握りしめて神様に祈っているみたいな姿になった。

安藤君も僕も体を硬くして身動きせずに発表を待った。僕たちの学校名が呼ばれ、ひと呼吸置いて「金賞」と発表された。周りは悲鳴のような歓声と席から飛び上がったり、隣どうしで抱き合ったり大騒ぎで座席が揺れた。

僕と安藤君はスイッチが同時に入った機械みたいに背もたれからぴんと背筋を伸ばして離れ、お互いに顔を見合わせた。目が見開かれて口を開けて二人とも同じ表情をしていたと思う。

次にすぽんと力が抜けて「よかったあ」と心の底から声が出た。ただただ金賞で、もう一度演奏のチャンスが与えられた安堵感に満たされた。銀賞と言われたら、金色に光る真新しいトランペットと千恵姉ちゃんの顔をまともに見られなかっただろう。

翌朝起きると、机の上に「おめでとう」と書いた千恵姉ちゃんのポストイットが貼ってあった。あがって音が出なかったなんて言えっこない。今日からは県大会に向けて練習だ。

部室に行くと、周りの様子がいつもと違ってなんか暗い。あちこちで集まってひそひそ話をしている。安藤君が近寄ってきて手招きするので廊下に出た。

「長谷川先輩と白石先輩が県大会に出ないみたいだぞ」

トロンボーンとホルンの三年男子の先輩だ。

「夏期講習が始まっちゃうんだって」