第一章 新しい家族

吹奏楽部

テスト期間中は昼頃に家に帰れる。帰ると千恵姉ちゃんが貸してくれた『北の国から』のDVDを見続け、試験は全部一夜漬けで済ませた。授業中にノートをちゃんと作る習慣がついているから困らなかった。

桃井先輩に「授業中、ノートをちゃんと取っておけば、試験は大丈夫だからね」と教えられていた。最後の試験が終わったとき、クラスのみんなの表情が一気に緩(ゆる)んだ。でも僕はみんなとはかなり違っていた。今日からコンクールのための合奏練習がラストスパートに入る。

一年生は三人しか出られないのだから、他の一年生の誰よりも集中しなくちゃいけない。帰りのホームルームで、担任の野中先生は「テストが終わったからといってすぐに夏休み気分になってはいけない。明日からもしばらくは授業がある。球技大会もあるから気を抜くな」というような注意を長々とした。

廊下が騒がしくなり、ホームルームが終わったクラスの生徒がどっと廊下に出てきた。お尻がむずむずしてきた。早く部室に行かなくちゃ。野中先生はすごくいい先生なんだけど帰りのホームルームが長い。

自信よりも不安が大きいのに、コンクールの朝が来てしまった。机の上には千恵姉ちゃんの〈頑張って! 電車ちんと昼ご飯代〉のメモと一緒に二千円が置いてあった。

会場前で、コンクールに出ない一年生がにこにこしながら、口々に「頑張って」と言ってくれるけど、僕はその時点でもう緊張していた。桃井先輩が来て「坂上君、音がすごくよくなっているから、自信持って吹いていいよ」そう言ってくれたけど、自分の音に自信なんてなかった。

決められた客席へ移動して、他の学校の演奏を聴いたはずなのだけど、覚えてもいないし、よく聴いてもいなかった。出番を待つ間、マウスピースを握りしめて、顧問の岩崎先生に言われたことを書き込んだ楽譜を膝の上に置いて眺めていた。

あっという間に順番が来て、リハーサル室に移動して音合わせをした。平常心なんてすっ飛んでいた。塩谷先輩に話しかけられても上の空で、なんてしゃべっているのかわからない。今度はステージの袖に移動して、直前の学校の演奏が終わるのを待った。