第2章 光秀と将軍義昭
3.十七箇条の異見書(いけんしょ)
九月十二日<二条御所>
清信
「公方様、本日は信長殿の使者として明智光秀殿と蜂屋頼隆が参られました」
義昭
「……」
光秀
「公方様におかれましては益々ご機嫌麗しく、光秀、恐悦至極存じ上げまする。本日お伺い致しましたのは、公方様より天下の政を任せられた信長より、以前ご誓約戴いた五箇条書について、公方様がまだよくご理解なされておられぬ様子ということで、主人信長より、それを更に詳しくお示しした新たな条書を持参し、『格段のご理解を戴くよう』との指示で罷り越した次第であります。十七箇条ございます。これより読み上げますので、何卒最後までご拝聴賜りますようお願い申し上げます。主人信長は、公方様が善処して戴ければ、なお一層のご支援をお約束すると申しておりまする。されば御免こうむり読み上げまする」
義昭
「……」
光秀
「……第十一条『元亀の元号、不吉であるから、改元した方がよいと、申し上げてきました。宮中のあと押しもあるのに進んでいません。これは畿内のためになることなので、油断することなくしっかりと取り組まれるべきと思います』、第十二条……」
義昭
「…もうよい! 光秀、そちは誰の家臣か、よく考えよ。信長はあまりにも唯我独尊、傲慢無礼ではないか! 何が天下の政じゃ、全くの私利私欲で、自分に抗する者達を武力と残忍な仕置きで服従させるだけではないか。どこに大義がある。本願寺の顕如をはじめ、武田・上杉・朝倉・北条の諸侯や毛利・島津等々、誰も信長に与する者はおらぬ。もうよい、下がれ!」
清信
「公方様。光秀殿は、信長殿の正式の使者であります。まだ読み上げ途中でござりますれば、今少し光秀殿より申し上げることをお聞きくだされ」
義昭
「……」
光秀
「申し訳ござりませんが、今少しご静聴賜りますようお願い申し上げまする……」
⇒あと少しじゃ、額の汗が目にしみるが、何としてでも全部読み上げなければ任務が完遂しない。