やがて、7番アイアンを取り出すと、軽く素振りをして、ボールを打った。7番アイアンで軽く振って低めのボールで100ヤード打つのだ。

多くのゴルファーは100ヤード打つときにはピッチングウェッジか52度のウェッジを使う。私はあえて低めのボールを打つために7番アイアンを使って練習している。ボールは、ほぼ狙い通り距離表示のボード近くに落ち、3、4回芝の上で跳ねて止まった。

そのとき、黒いスタンド式のキャディーバッグを肩から下げた女性がやって来た。アメリカの衣料品メーカーのロゴが格好よい。その大きさは男性用のクラブが入るほどだ。

すんなりとした黒い髪を茶色のシュシュでまとめている。身長はおよそ167センチ。紺の半袖シャツに明るいグレーのタイトなパンツをはいている。こんな日の早朝、50代以上のおじさんばかりの練習場で、彼女はかなり目立った。

空いている打席を探しながら、私の後ろの席にバッグを置いた。早朝の練習場は客が少ない。空いている打席を自由に選んで、打つことができる。

私は、彼女のことを気に留めないような素振りで7番アイアンを振った。私のボールは、ひときわ高い。口の悪い友達に言わせると、上に曲がっているのだそうだ。が、私自身は、きれいな飛球線を描いていると評価している。

ボールは150ヤード付近に落ちた。後ろの女性の視線は感じていた。しかし、振り返って、よいボールを打つぞと言いたい気持ちを気取られまいと、打ち続けた。

そのとき、ペシッと変な音がした。自分のすぐ左側を飛んでいったボール。一瞬私の動きは止まったが、振り返りはしない。後ろの女性に気を使い、ゆっくり7番アイアンをキャディーバッグに入れた。6番アイアンをキャディーバッグから引き抜きながら私は、後ろの女性をこっそり見た。

ビシッという快音。今度の彼女のボールは朝の澄んだ空気を掻き分け120と書かれたボードの前に落ちた。そして、ほとんど転がることなく止まった。

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