三 へんろ旅に当たっての心構え

まずは、へんろ旅心構えの整理整頓

へんろ旅の基本の心構えとして、心中弘法大師と共にお大師様の足跡をたどる「同行二人」のへんろ旅とする場合は、弘法大師すなわち遍照金剛(第六章をご覧下さい)を、心理的に唯一の大先達と意識した旅となります。

これは、へんろとは「遍路」で辺境の道を自分の足で編んで歩く旅、非日常体験の生活時間帯と強く自覚し、同行二人を方便として、心に複眼的思考を獲得・進化させ、やがてもう一人の客観的自己の確立を目指す旅となります。

とはいえ、へんろ旅も人それぞれです。特に目的意識を持たない「へんろ的旅人」としてのへんろでも良いのです。

これは、日常的諸願成就は取りあえずのわがまま、自我を背景とした他力本願的な旅になります。旅は日常に非日常的変化を積極的に取り込む事ですので、「犬も歩けば棒に当たる」すなわち非日常的体験で日常を変化させる期待感で行動する形で構わないのです。

たとえば、単に健全な健康・贅沢な願望として、歩くから健康になる、健康だから歩ける、それが身心の鍛錬となるという考え方。

あるいは、心のへんろ旅で変化する環境に即応する、自由度の大きい直観力や智慧(このあたりについては、以後の章でたびたびご説明します)の獲得と鍛錬。

歩きながら、人生上あるいは日々の「厄」に対峙する生き方を考えるのもありで、こうした場合は無意識的な願意だといえるかもしれません。

他にも、命を考えたり、死に対する心構えを確立したり、避けられない死に対する不安・寂しさに対処するという場合もあるでしょう。

いずれにせよ、これらは自分を見つめ、自分と語る自分探しの心の旅。加えて、仏を知り、仏の心に近付くための旅、また仏教徒の位置を意識しての信仰行為と考える場合、へんろ旅そのものが「動行(どうぎょう)修行」「歩行禅修行」だといえます。

へんろ旅の日々で特に心得る事

基本の心構えを持って、いざへんろ旅に出たら、意識的に非日常空間を持つ事です。へんろにおいては、日常環境に非日常的環境が混在しており、逆もまた同じといえるでしょう。

すなわち、日常生活上の厄の日々清算を意識する事、日常・非日常を一体化させて、常にへんろ三昧の環境を維持する事等が大切です。