(俺、霊能者じゃないし……わかるわけないか)
ワケがわからない上に、自分ではどうにもならないと改めて感じてから、走る電車とともに目に入る男の顔にも興味がなくなり、電車を見つめることもなくなった。そんな原田自身、通常の生活に戻ったと思っていた。自宅のテレビで走る電車を見るまでは……。
大学の講義が休講の日、原田は自宅でカップラーメンを食べながらテレビを見ていた。グルメ旅番組だったようだが、特に見るともなくテレビをつけていた。そのとき、電車が走る映像が流れると、そこに黒い影と男の顔が現れた。そして、それを見た原田の箸が止まった。
(ナマでなくても、映像の電車でも見えるんだ……顔……)
そう思った彼は、今度は食い入るようにテレビを見つめた。また電車が走る場面があったら、男の顔が見えるかもしれないとも思ったからだ。
案の定、電車が一定の速さで走る映像が流れると、男の顔がテレビ画面に映り出す。そんな画面を見るうちに、ふと、あることを思いついた。
(動画を撮ろう!)
原田は電車が見える公園に行き、デジカメで走っている電車を撮影することにした。走る電車を撮影後、すぐに動画を見ると、動く車両に男の顔が浮かび上がった。何かを言っている様子もわかる。しかし、電車が走る映像は数秒で、男の顔が浮かび上がるのも数秒ということは、肉眼で見てきたものと変わりがなかった。
そこで、原田は走っている電車の映像を何本も撮影し、自分の部屋に戻った。そして、撮ったばかりの動画から、動いている車両部分だけを集め、電車が走り続けるようなDVDを作成することにした。
地味な作業だったが、彼は何かに取り憑かれたかのように作業を続けた。そうして、何分間か電車が走るだけの映像ができあがったとき、原田は何か不思議な達成感とともに、そのDVDを再生した。