まぁそこは、さすがに日本、皆粛々と対応し、システムの狂いは小まめに察知し、適宜修復する。眠れない夜、ふと、手の小指をマッサージしてみた。
幼い頃、オカンが、「よく眠れるおまじない」と言ってしてくれたことを思い出したのだった。もう20数年も前の記憶である。
2018年9月6日木曜日
拘置所では、毎日21時から翌朝7時半までの、長い夜を過ごす。夜通し、瞼の皮一枚を隔てて煌々と灯され続ける蛍光灯に苦しみながら、就寝しなければならない。
ただでさえ、僕には、睡眠障害の持病がある上、当然ながら、自分の身に起きた事への、閾値を超えるほどの強いストレスで、ほとんど眠ることのできない状態が続いていた。
かなりの精神的ダメージが、じわじわと胸の中に、耐えがたい圧迫感を伴って広がってゆくように感じていた。その苦しさに耐えきれず、弁護士を通して、睡眠薬の処方をお願いした。
拘置所内で処方してもらえるものとばかり思っていたのだが、指定のクリニックへ行って受診しなければならなかった。そのため、この日、捜査官に連れて行かれた。しかしその経験は、精神に、さらなるダメージを与えるものだったのである。
クリニックは、市中の雑居ビルの中にあり、一般の患者さんも来ている。もちろん、車を降りてからの道中にも、市民が普通に歩いている。その中を、僕は、手錠に腰縄で、歩かされたのだ。
まだ僕は、[受刑者]ではなく、[推定無罪の一市民]だ。逮捕されたとはいえ、何の罪状も決定していない。拘置所や裁判所だけでも、こうした扱いを受けることに、尊厳を踏みにじられる惨めな思いをしていたのに、市中を歩かされたのだ。
たとえ本物の受刑者であったとしても、このような人権無視の扱いが、仮にも[先進国とされているこの国]で、行われていいとは思えない。事情を知らない人々の好奇の目が痛かった。
担当官は、無表情ノッポとDEAだった。DEAは、この日はランニングシャツではなく、普通の黒ポロシャツ姿だった。無表情ノッポに言われた。
「おまえのせいで、今日のコンパに遅れるだろ。全くうっとうしい。このジャンキーが!」