明子は自分の根にある悪戯心が働いて、喰らい付いてきた友人をあえて焦らすかのように、もったいぶったものの言いようになって、
「そう、確か庁内で誰かが噂をしていなかったっけ? 私もだいぶ前に、住民課の京子から聞いたんだけれどね。あなたも小耳に挟んだことないの? “ゴミ仙人”の話。私、それを思い出したのよ」
「え~っ。今、確かゴミ仙人って言った? 知ってる、知ってる。以前に、そんな噂を聞いたことがある。思い出したわ。何でも、その御仁に頼むと、二~三日もしないうちに、失せ物が見つかるとかいう奇怪な話でしょう。信じ難い話だと思うけど」
「そうよね、私もね、噂はあくまで噂であって雑話の域を出るものじゃないし、初めは全く信じてはいなかった。それでも、今回の沙織の身に降り掛かったことの顛末を考えると、今ではまんざら嘘ではないような気がしているの……」
「え~、信じ難いけれど、明子がそこまで言うのには、何か根拠でもあるんじゃないの。だったら、その沙織さんとやらのお話の先を聞かせてちょうだい」
明子は、優菜の興味を十分に引き付けたことに満足すると、傍らにあった湯呑みのお茶をゆっくりと飲み干して、事の顛末を語り始めたのである。
「順を追ってお話しするわね。実際、仙人と噂される御仁は、役所近くの休耕地、その一角にあるゴミ処理場で寝起きしているらしいのよ。万に一つの可能性があるかどうかも分からなかったけれど、沙織にその場所を紹介してあげたのよ。
彼女ったら早速翌日に、世田谷の自宅からこの市まで出向いてきて、私が紹介した御仁に会いに行ったというわけ。その日の夕刻、お目当てのゴミ処理場に辿り着くと、堆く積まれた、とても臭くて汚らしいゴミ山の脇に、事務所らしきお粗末な小屋が建っているのを見つけたそうよ」
優菜は大きな目をいっそう輝かせて明子の話に聞き入った。以下が、明子が語った話の概要である。