「この禅の本や鎌倉の歴史に関する本はどうしたの?」
圭がこたえる。
「俺、外国人と仕事をすることが多いだろう。禅のことをよく聞かれるんだ。それで禅の勉強を始めて、ついでに鎌倉の歴史も勉強しているのさ。よく一人で鎌倉の禅寺めぐりもしているよ」
玲子が別の本にも目をとめる。
「圭っていろんなものに興味を持っているのね。いろんな分野の書籍が置いてあるわ。あら、これはクラシックの本じゃないの?」
圭がその本を手に取って言う。
「音楽はクラシックに限るよ。とくに、オペラが大好きさ。だけど、ここに遊びに来た女性で、そんなに俺の書籍に興味を示したのは、玲子が初めてかもしれないな」
そう言ってマグカップを手に、書籍を見ている玲子を隣の寝室に連れていく。その寝室の大きな窓からも海が見え、ベッドの横には机とサーフボードが置いてある。圭は椅子に座ってマグカップを机の上に置き、パソコンを立ち上げて何かを始めている。
玲子は大きなベッドの上に座る。
「圭、このダブルのベッド、クッションがしっかりしていて、とてもいいわね。千佳ちゃんもよくこの部屋に来て遊んでいくのかしら?」
パソコンを操作しながら返事をする。
「千佳はいつもこのマンションに来て、コーヒーを飲んで帰っていくよ。そのベッドの上に、濡れて砂のついた水着のままでダイブをするから、俺はいつも怒って注意をしているんだ」
するとその話を聞いて玲子が突然立ち上がり、ベッドに向かってダイブしてドスンと大きな音を立て、ベッドの上で仰向けになって笑っている。
茶目っ気たっぷりに言う。
「私も千佳ちゃんに対抗してやってみたのよ。どうかしら?」
それを見て圭が呆れた顔をする。
「止めてくれよ。玲子までそんなことをするなんて」
圭は椅子から立ち上がってベッドのところで、仰向けになった玲子の手を取って体を起こしてやり、またパソコンに向かう。
玲子がベッドの上に座り直して、寝室の窓の外を見る。
「ここからは江の島もよく見えるのね。江の島の花火大会の時、ここに遊びに来てもいいかしら?」
パソコンを操作しながら返事をする。
「いいよ。このマンションを買った時、この寝室がとくに気に入って、角部屋の515号室に決めたのさ。ここは競争倍率が高かったけど当選したよ。朝起きて、この部屋のカーテンを開けた時の海と江の島が最高だよ。いつもこの海から元気をもらえる。俺はとくにこの寝室が好きで、ほとんどの時間をこの部屋で過ごしているのさ」