回想の母

英良は母の着替えや生活に必要なものを一式持って通路を歩いて行き整形外科の待合所に来た。長椅子にはギブスを巻いた若い男性患者が松葉杖を脇に置いて座り、英良はその白く長い足を大きくよけて通り過ぎた。

前の方を見ると先ほどストレッチャーに乗せられた患者がいて、一人の看護師が付き添って作業をしていた。その看護師は身長が一六八センチほどあり均整のとれた身体でナースパンツとナースシューズを履いていた。英良の身長は一七二センチだったので、ナースシューズの高さを合わせると英良の身長と同じくらいになった。

ストレッチャーの高さは丁度腰の位置にあり、彼女は腰を屈め医療用の寝具を患者に掛けており、屈んでいたため英良に向けていた形の良い尻があらわになり、僅か一メートルくらいの英良との距離では肉感的な尻に白いレースのハイレッグのパンティーラインがそのディテールまではっきり見えた。

その後、彼女は床に落ちた医療用の布を拾うために、深い前屈の体勢になった。ハイレッグのショーツにぴたりと吸い付いた左右の分厚い唇状の肉の塊が両足の太腿の間に挟まれて垣間見えた。

英良はその唇状の肉塊に瞬間的に欲情を感じたが、前屈の女性の太腿の間から見える肉塊が何であるか、十六歳の時には分からず、ただ本能的な感情を醸し出す光景にしか感じなかった。

隣には精神科の診察室と待合室があり、これから昼休みなのか一人の女医がサンドウィッチと缶コーヒーの入ったレジ袋を持って歩いて診察室から出てきた。

その女医は美人なほうで髪は長く、髪を後ろで飾りのない髪留めで束ね英良と目が合っても何事もなかったかのように前に向きなおり、厳しい顔つきで近寄りがたい雰囲気を持って歩いて行った。

待合室を横切り、通路を歩いて行くと突き当りがレントゲン室だった。技師が大声で患者を呼び、反応がなかったものの暫くすると患者らしき中年の男性が来て何やら苦情を言っていた。

その話では待合室の場所が分からず、少し離れたところの長椅子で待っていたが声が聞こえなかったと強い口調で抗議しており、担当の技師もなるべく大声で呼んでいたが対応が悪く申し訳ないと謝罪していた。