なぜ、私立中学校がそんなに数字を伸ばしたか。原因はいくつか考えられる。
一つは、ここ何年かのうちに私立高校が生き残りをかけて、中等部を新設したり、女子校を共学にしたりといった先手を打ってきたことである。中等部を新設した高校は、最初はそれなりに不合格者が出る狭き門だったため、さほど気にすることもなかった。
しかし、私学は経営が第一である。生徒数が足りないと思ったら、合格ラインを下げてくる。おそらくその年は、経営上の事情で中等部を例年より広き門にしたのだろう。案の定、その私学は高等部の入試でもほとんど不合格者を出さなかった。それに、習熟度別の少人数指導や土曜日の授業実施など、公立中学校にはない特色を打ち出している。
近年では、家庭の収入に応じて、返済不要の高等学校等就学支援が受けられるようになった。中学校の三年間は同様の費用がかかったとしても、高校卒業までをトータルで考えれば、私学進学における最大のネックだった経済的負担は軽減されたといえるだろう。
また、公立高校が十分に特色を打ち出せていなかったことも影響している。公立高校に十分な魅力があれば、私立中学を選択するのに二の足を踏むこともあるはずだ。そうならないのは、公立高校が受験生や保護者にとって魅力が足りないからだ。私がそう思うのは次のような経験による。
例年、一学期には地元の高校の多くが中学校に挨拶回りにやってくる。その際、自分の学校の特長や魅力を中学校の進路指導担当に説明する(校長も同席することが多い)のだが、正直、公立高校からは熱意が感じられない。
教育委員会からのさまざまな制約もあり、特色を出しにくいこともあるのかもしれないが、何としてでも生徒を集めたいという意欲に欠ける。