■研究方法については、住み慣れた地域で長年にわたって暮らす短期記憶障害が顕著な初期段階認知症高齢者(母)をモデルに設定し、参与観察の動向調査を実施した。(その結果を多角的に検証するためにトライアンギュレーション研究法を用いて、地域包括支援センターにアンケートをし、経験豊富なソーシャルワーカーにもインタビュー調査を行った。また文献の研究も併せて行った)
■モデルへの参与観察とその結果①
▲場所が分からなくなる(怖い経験があるから)範囲を歩かない。歩く範囲は縮小している。遠くても家から1.5km範囲内で歩いている(移動距離は3km程度)。
場所が分からなくなった場合などは、建築物、店舗などを目印として、元の道に戻ろうとしていた。ある意味のランドマークの確認作業を行っている。
横断歩道以外の所を渡る、急いで横断することもあった。空間距離に認知障害がある場合、事故にあうリスクがある。
■モデルへの参与観察とその結果②
▲10回の中5回はほぼ同じルートを歩く(Aパターン)。調査者にいつもと違う道並みを見せるためにとった行動(Bパターン)、Bパターンの類型(Cパターン)。そしてほとんど使わない(Dパターン)に分類できる。
この中でAパターンが最も歩き慣れているので、総移動距離が最も長くても好んで使用していることが分かる。このように、移動距離が長くてもなじみがあり、パターン化された街並みの範囲であれば、この段階では問題なく対応できることがうかがえる。
■調査の結論:短期記憶の障害が顕著な高齢者である母は、住み慣れた地域では帰宅困難に陥ることはなかった。ただ、自らが行動できる範囲を自らが修正し、無理のない範囲で行動していることが分かった。
■では「徘徊」=帰宅困難=行方不明は、なぜ起きるのか?
▲行方不明事案として扱われているケースもほとんどが当日に保護されている。
・ここから考えると探索行動の中で家族などの関係者が、心配して警察に届け出たものと考えることができる。
・ここから考えると、認知症高齢者=帰宅困難というのはこちら側がつくりあげたフィクションではないか?
・その意味でいえば、ある条件が整っていれば認知症高齢者も帰る場所に帰れるのではないかという思いもする。