第一章 嫁姑奮戦記

姑はよく鼾をかく。その際、時々呼吸が止まることに気がついた。最初は驚いてゆり起こしたりしたが、先生や看護婦さんにお尋ねすると、老人に多い症状なのでそう気にすることはないと言われる。

今までは他のことにかまけて気がつかなかったが、注意して様子を見ているとかなり頻繁だ。苦しくはないのだろうか。

夜はすぐ起きて寝るのは明け方というパターンで、付き合う私は睡眠不足の連続で、神経が高ぶり眠気さえ感じずイライラがつのる。

そんな時のこと、たまたま姑の頭の上に干してあったタオルがひらっと寝ている姑の顔に落ちた。大きく開いた口をおおっている。あわてて取り除こうとした手が一時止まった。

このまま逝ってくれたらという思いが一瞬よぎったのである。ところがタオルなど関係なく姑は大きく息を吐いた。これくらいで死ぬもんかと言わんばかりに。危うい思いはその後起きることはなかった。姑は自分も私をも救ったのだ。

一方、夜の活動は相変わらず激しい。点滴の針を抜かないよう結んである紐から手を引き抜こうとひねるので肩痛がひどい。手すりを持って寝たり起きたり、手すりを結んである紐を解こうとしたりは相変わらずだし、痛くなるはずである。

布団をたたんだり広げたり下に落としたり、枕を落としたりお尻に敷いてあるバスタオルを外して下に放り投げたり、全くよく動く。その時は一向に疲れないらしいが、翌朝肩にこたえるのだ。正気だったら肩どころか全身痛だろう。

レントゲンでは異常はないが日中は肩痛でお茶碗も持てないし、車椅子への移動もトイレへの移動も自力では出来ないほどだ。それが夜になるとどうしてせわしく動けるのか不思議でならない。

あまり動くので私も頭にきてせわしく動く手を握り、「このせわしない悪い手、自分で叩いときなさい」と言うと、自分の手をパンパンと叩く。またある夜は、「この悪い手縛ってもいい?」と聞くと、縛ってと手を出す。ところが縛った途端、すぐ解きにかかりその都度駄目だった。その集中力やすごいものがある。

多分、子供の頃は少しもじっとしていないやんちゃな子だったのだろう。でもきっと言うことはきかないが気の可愛らしい子だったに違いない。息子の二、三歳の頃を思い出し、何だかいじらしく思え、怒りが萎えることもしばしばだった。