第一章 嫁姑奮戦記
おばあちゃんの心のつぶやき
今日はどうやら胃の手術らしい。どうもないのに何で手術なんかするんやろう。
嫁に、「公ちゃん。うち、胃どうもないさかい、今日の手術止めとくわ。先生にそないに言うてくれへんか」と言うと「おばあちゃん手術なんかせえへんよ。胃カメラ呑むだけよ。今までなんべんもやっているでしょう」と言うではないか。
なんや、そうやったんか。心配で心配でたまらんかったのに。
そやけどうちもアホになったもんや。車椅子の動かし方なんぼ教えてもろても分からへん。自分でも嫌になる。自分で動かしてごらんと言われても無理。
歩くほうがよっぽど楽やわと思ったので、「うち歩いてトイレ行くわ」と言うと、「まだ杖もよう使わんのにちょっと無理違うかな」と言われる。そういえば杖の難しいこと。
リハビリで練習してもすぐ放してしまい倒れそうになる。「これが出来ないと家に帰れないね」と言われるが、自分でも知らんうちに放してしまうので困る。
今日は右肩が痛い。リハビリの先生に、「どうしてそんなに痛いのですか」と聞かれたので、「昨日お風呂に行く時、こけて肩打ちましてん」と言うと嫁が違うとかなんとか言っている。「あんたが居らん時行ったんや」と言うと、「お風呂には私が車椅子で連れて行ったでしょう。一人で歩いて行くなんて考えられへんわ」と言う。
そうや、そんなら若い時働きすぎて肩痛めたに違いないと思ったのでそう言うと、「夜動きすぎたせいなの」と言われる。「なんでうちが夜の夜中に動き回るの」と抗議すると、「おばあちゃんは夜になると元気になって動き回るので、点滴している時は縛るの。それを解こうとして手をひねり回したりするし、縛らなかったら今度は手すりを持ってなんべんも起き上がったり寝たりしているから痛くなるのよ」とか言う。何が面白うてそんなしんどいこと一晩中するのと思ったが何も覚えていないのでなんとも言えない。
この頃よく近所の人や姉さんたちやH子ちゃんが来てくれる。うちは人と話すのが苦手なので、お礼だけは言ってその人の話を聞くしかようせん。せいぜい嫁が喋っている。嫁は喋ることが苦にならんらしい。うまいこと喋るわ。