私と矢沢くんとの出会いは中学1年の3学期。私が千葉から転校してきて、隣の席だったのが矢沢くん。数日経って、矢沢くんへのみんなの対応がおかしいと思い始めた。ある日の昼休み、矢沢君の周りに男子が集まっていた。田所というクラスメイトが、

「矢沢、教科書忘れたから貸せよ!」

と言って勝手に持って行ってしまった。矢沢くんの顔は無表情のままだった。

5時間目が始まる。国語の時間、回し読みが始まったが、田所のせいで矢沢くんは教科書がない。矢沢くんが手を上げて、

「先生、教科書忘れました」

「矢沢! 何回目だ……後ろで正座しろ!」

先生が厳しく注意するとクラスの男子が笑う。

「先生、矢沢くん忘れてません。田所くんに貸してました」と、言いたいが言えない。

後ろを見ると、矢沢くんと目が合ってしまった。気まずい。

5時間目を終えて、田所が正座をしている矢沢くんの元に来て、

「正座お疲れさまでーす」と笑いながら教科書を返した。

矢沢くんのことが心配になって「大丈夫?」と言ったら、その光景を見いてた男子たちが、面白くないのか矢沢くんに絡み始めた。正座で足がしびれてなかなか立てない彼を無理やり立たせて、どこかに連れて行ってしまった。

下校途中、前を矢沢くんが歩いていた。顔には傷やアザ、そして足もひきずって歩いていて、ほっとけなかった。

「矢沢くん、鞄持つよ」と彼に声をかけた。

「なんかごめん」と下を向いたままの矢沢くん。

家が同じ方向だったから、無言のまま一緒にゆっくりと歩く。

「ここでいいよ。俺と関わると君に不幸が起きるから、近づいたらダメだ」と、持っていた鞄を手に取り行ってしまった。

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