こんな出会いがあるのだろうか。
たまに街で奇異な格好をした人物と遭遇することはなくはなかった。
しかし、こんなにも人間臭が感じられない人物⁉ と出くわしたことはない。修作は今、人物と言った。でも、人間っぽさからはその黒い物体はかけはなれていた。
ただ、人型を形状として持っているから、いずれにしても人間の(中身は)かぶりものをしていたとしても、それは人間によるものである、という認識なのだったが、長い時間対峙している間に、修作は次第に血の通う人間による人型という考えを捨てざるをえなくなっていった。
なぜなら、彼? は、厚みのない、平べったい、型そのものだったからである。そこには内臓も血管も筋肉もなかった。あるのは表面だけなのだ。
いつのまにか修作以外に数人が同じ裏通りを歩いていた。彼らは、まるで黒い平べったい物体が見えぬかのように、ぶつかるかぶつからないかのスレスレを歩く。いや実際彼らにその真黒なペラペラは見えないのだ。
そして、ぶつかりそうになると、その黒いペラペラがうまい具合に、ゆらっと動いてかわすからなのだ。ということは、ペラペラは修作にしか見えていないことになる。もしくは、修作にだけ見えるようにしている、ということになる。
修作はペラペラのすぐ傍まで来ている。
修作は話しかけるきっかけをしんぼう強く待っている。言葉が通じるかどうかもわからないのに。
「もし!?」もし。いつの時代の問いかけだ。
自分で発しながらおかしくなった。
しかし、その場でそのペラペラに問いかけるため、最適な言葉を探した時、とっさに出たのが、「もし!?」だったのだ。
通行人が見たら誰もいない空間に向けて、立ち止まり声をかけているように見えたことだろう。
「はい」
ずいぶんその真黒な存在からは予想しない、かん高い声音が返ってきた。