第一章　目に見えないもの

満月と約束　不思議な夢

満月の夜に不思議な夢を見ました。

「約束しましたか？」という男性の優しい声が聞こえてきました。

「約束しましたよ」と包み込むような女性の声が答えます。そして遠い昔を思い出すように会話が続きます。

「カワイアハオ教会の前に、ユーツリーがあったのを覚えていますか？　あの木の下で二人で話したでしょ？　人の人生って生まれてから死ぬまでいろいろあるらしいよ。教会で起こる人生のすべてを経験するために、一緒に生まれようって約束したんですよ」

「そうでしたか。それはずいぶん前にした約束ですね。その後に、私もいろいろな人生を経験してきました」

「私もです。でも、あなたに再会して、あなたの瞳を見つめた時に、その約束を思い出しました。まっすぐに見つめたあなたの瞳に、あのユーツリーが見えたから」

「カワイアハオ教会って、ハワイにある教会ですよね。ハワイで一番古い教会だったかなあ」

「そうです。私はハワイに行くと、その教会のミサにいつも参列していました。その時は思い出さなかったけれど、あなたの瞳の奥にその記憶が眠っていました。思い出さないままに今生を終えるかと思いましたが、忘れられるものなら忘れてみなさいって、そよ風が吹いたように言われたような気がしたんですよ。不思議なものですね」

「そうですか。約束は守るためにあるものですから、一番最初にした約束なら守らなければなりませんね。それなら約束を守るために、少しの時間をもらえませんか。準備をしなければなりません」

「もちろんです。私も準備をするために時間が必要でした。あなたをあきらめようと思ったことが何度もありました。でもね、そのたびに自分の胸に手を当てて、あなたのことを考えてみたんです。ここにある感情は特別で、こんなに人を愛せることはもうないなあって思ったんですよ。

それに、私には二人のどちらかが最期を看取る映像が浮かんでいます。それも生まれる前に約束したことです。だから、私はいつまでもあなたをお待ちしています。思う存分、準備をしてください」