「お母さん……」

わたしは、くずれこむようにお母さんの胸に飛び込んだ。お母さんの胸の中は温かかった。そして涙ながらに、昨日学校であったことを話した。話を聞くと、お母さんは言った。

「まぁ、そんなことがあったの。でもね、そんなことで煮しめを嫌にならないでほしいな。れいちゃんが煮しめを好きだったように、煮しめも喜んで食べてくれるれいちゃんのことがきっと好きなはずよ。もちろんお母さんもね」

「本当に?」

「ええ、本当よ。確かにみんなと少し違っていれば、周りから変な目で見られたり、からかわれたり、分かってもらえないことだってある。わたしにだって同じようなことがあったわ」

「えっ、お母さんにもそんなことがあったの?」

「ええ、もちろんあったわよ。あれは高校の時かな。わたしは、おばあちゃんの作る煮しめが大好きだったの」

「えっ、おばあちゃんも煮しめ作るの?」

「だってわたしは、おばあちゃんから煮しめの作り方を教わったんだもの」

「そうだったの」

「そうよ。それでね、学校のお昼はみんな毎日お弁当でね、わたしは、大好きなおばあちゃんの煮しめをいつもお弁当に入れてもらっていたの。だけど学校では、同じようにみんなから変な目で見られたり、からかわれたりもしていたわ」

「わたしと一緒だね」

「そうね。でもある時ね、わたしもれいちゃんと同じように煮しめが嫌になって、いけないことなんだけど、食べずに教室のゴミ箱に捨てていたわ」

「えぇ、そうなの。もったいないなぁ」

「そしたらね、それを見ていたある食いしん坊の男の子が、『いらないならオレが食うよ!』って言って煮しめを食べてくれたの。そしたらね、それがすごく美味しかったらしくてね。『また食べたい!また作ってきてほしい』って、いつも頼まれるから、おばあちゃんから必死に作り方を教わったわ。あの頃は、煮しめを美味しそうに食べてくれるその子のためにいつも作って学校に持って行ったわね。今となってはいい思い出ね。それからは、お母さんも煮しめのこと、ずっと好きよ」

「お母さんと煮しめにそんな思い出があったんだね」

わたしは、お母さんの話を聞いていると、なんだか心がホッとした。そして、お母さんは最後に、わたしにこう言った。

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