お母さんの煮しめ

次の日。天気は曇り。

今日もみんな、午前の授業は、全然元気がなかった。だけど、給食の時間になると、自然といつものニコニコなみんなに戻っていた。今日もお弁当だったから、みんなワクワクもしていた。

みんなは、席をくっつけ、それぞれお弁当箱を机の上に用意する。そしてお弁当箱のフタを開け、ワクワクしながら中をのぞく。(なにかな、なにかな~)

「わぁ、とりめしだ!」と、喜ぶかいせいくん。

「わたしはオムレツだぁ~」と、続けて喜ぶゆきちゃん。

「やった! 今日はサンドイッチだ~」と、歓喜のひろとくん。

「オレはスパゲッティだぞ~」と、相変わらず自慢げなかんたくん。

(大丈夫。今日はハンバーグのはずだから、昨日みたいにからかわれることはないわ…… )

わたしはそう信じ、お弁当箱のフタを開け、恐る恐る中をのぞいた。

(お願い……)

お弁当箱の中には、ご飯、ハンバーグ、人参、ブロッコリー、卵焼き、そして…… 煮しめが入っていた。

「おい、こいつまた昨日の変なもの持ってきてるぞ~」

また、かんたくんがからかってきた。かんたくんの声にみんな集まった。そしてみんなは、また昨日と同じように変な目で見てきた。みんなの視線がわたしの視界を狭め、みんなの声がわたしの耳をガヤガヤと苦しめた。こんな経験は初めてだった。

この瞬間、わたしは、もうなんだか煮しめという存在が嫌になってきた。もう、見るのも、食べるのも嫌になってきた。見た目も、味も、好きだったのかも、なんだかよくわからない。みんなから変な目で見られるし、からかわれるし、恥ずかしい。何せ、この事で心が傷ついた。二度も…… 。

その日、わたしはついに、煮しめを食べなかった。

わたしは、学校から帰るとすぐに、台所にいるお母さんの元へ行き、声を荒げて言った。

「もう、なんでお弁当に、煮しめ入れたのぉ!」

お母さんは困惑した表情で言った。

「えっ、いけなかった? だって、煮しめのときはあんなに喜んで食べるじゃない?」

「もうにしめは嫌なのぉ!」

そう言うと、わたしは部屋にこもった。