その後、お母さんは、心配して何度も部屋へ様子を見に来た。だが、わたしは布団にくるまって、顔を合わせなかった。お母さんの心配した問いかけに返事もしなかった。

(お母さん、なんでお弁当に煮しめを入れたの……)

丸まった布団の中でただただその疑問だけがグルグルと頭を回った。いつもは入ると温かい布団の中も、今夜はなぜだかいつまで経っても冷たいままだった。

翌朝になり、結局、わたしは、お母さんとは口をきかぬまま学校へ行った。

学校でも、わたしは、誰とも口をきかなかった。ききたくなかった。

みんなの目、わたしのいないところで話すみんなの会話、関係のないことまで何もかもが気になった。みんな、きっとわたしを変なやつだと思っているはず。こんな想いは嫌。もうこれ以上傷つきたくない…… 。

わたしは、自らみんなを避け、とうとう孤独となってしまった。

(誰も分かってくれない。みんなも、お母さんも…… )

学校が終わると、わたしは、校舎を飛び出すように走って帰った。

走って、走って、走って。

走って、走って、走った。

走り続けた先、だんだんと自分の家が見えてきた。(戻りたくない……)

わたしは、違う方へ走った。学校からも家からも遠くへ…… 。

ひたすら……ひたすら……ひたすら……ひたすら遠くへ…… 。

逃げて……逃げて……ひたすら逃げた……。

突然、足が止まった……。

気づくと、目の前には立ち入り禁止の看板と安全柵が行く手を阻んでいた。さらに上を見上げると、そこには通称『武者返し』と呼ばれる頑丈でデカく、反り返りの激しい高石垣。その上には、二度の震災で痛々しく傷つきながらもその場に立ち続ける、復興途中の熊本城の天守閣がそびえ立ち、こちらを見つめていた。

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