お母さんの煮しめ
「れいちゃん、わたしはね、ありのままの自分でいればいいと思うの。例え周りから変な目で見られても、からかわれても、周りに合わせて無理に自分の好きを変えなくていいのよ。好きってものは人それぞれなんだから。
だから、れいちゃんが煮しめを好きなら好きって。それでいいのよ。何だってそう。例えそれが好きな食べ物であっても、人であっても、スポーツであっても、本や映画であっても、趣味であっても、夢や目標であっても。
その好きは自分らしさなんだからもっと大事にしなさい。例えそれがみんなから分かってもらえなくても、でも分かってくれる人だってきっといると思うわ。そういう人は、もしかしたら、身近なところにいたり、実は意外なところにもいたりするものよ」
お母さんの笑顔にわたしも笑顔になった。お母さんに話して本当によかった。
「うん、そうだよね。例え、まわりから変な目で見られたって、何言われたって、わたしは、お母さんの煮しめが大好きよ!」
「えぇ。やっぱりそっちの方がれいちゃんらしくて素敵だよ」
そう言うとお母さんは、わたしを温かく抱きしめてくれた。わたしは、お母さんの温かい胸の中で言った。
「お母さん、いつかわたしにも煮しめの作り方を教えてね。約束だよ」
「ええ、もちろん。約束ね」
わたしは、お母さんと顔を見合わせ笑った。
すると、ガラガラーっと玄関の扉が開き、玄関の方から「ただいまー」と、声が聞こえてきた。
「ん? お父さんかな?」
「帰ってきたのかもね。行ってみようか」
「うん」
お父さんが帰ってきた。手には開かれていない乾いた傘を持っていた。
「お父さん、おかえりー」
「おかえりなさい」
「ただいま。あぁ~、おなかへった~」