かんたくんの手は止まることなく、涙を流しながら「うめぇ……うめぇよ、これ……」と言葉をこぼし、食べ続けた。
「これが煮しめっていうのよ。うちのお母さんが作ったの。わたしの大好きな食べ物よ。美味しいでしょ?」
「うめぇ、うめぇ……」
かんたくんは、もうこれ以上涙を流すまいと目を閉じてこらえるが、煮しめのあまりの美味しさにどんどん鼻の穴が開いていく。気づくと周りには、興味津々な顔をしたクラスのみんなが集まっていた。わたしは、みんなに向かって言ってみた。
「みんなも煮しめ食べてみる?」
すると
「ちょ、ちょうだい!」
「わたしにも!」
「ボクも食べていい?」
「オレもオレも……」
みんな、わたしのお弁当箱から次々と、煮しめをつまんでいく。
「わぁ~、美味しい!」
「ホントだ、うめぇ!」
「美味しい!」
「ねぇ、もう一個もらっていい?」
「煮しめって、こんなに美味しいんだね」
みんな、お母さんの煮しめを喜んで食べてくれた。ただただ嬉しく、幸せだった。気づけばここ最近ずっと曇っていた空は、いつの間にか太陽によって光り輝いていた。目の前に広がる、その時のキラキラとした光景は大人になった今でもずっと忘れない。