「それより狢、居心地はどうだい?」
「最高です、でもなんだかまだ夢みたいで」
「必ず来ると思っていたよ」
「暗がりの中を歩いていたら遠くに光が見えてきて」
「レグナの光を見つけたんだね」
「そうそう、それで光の方に行けばきっと何かあると思って……」
「引き返そうとは思わなかった?」
「なぜだろう、それは思わなかった」
「好奇心だよ」
「え?」
「君はいい意味で好奇心が強い。だから必ず来ると思っていた、情景(シーン)を共有しながらね」
「シーン?」
「君の栗林はとても興味深かったし、おたまじゃくしの池が見えてきた時は興奮したね」
「え? 見えるんですか?」「実際に行くことはできないが気持ちに寄り添うことはできる」
「やっぱり、あなただったんですねカプリス」
狢は安堵した声で続けた。
「いつも誰かがそばにいるような気がしていた……」
「君の心が強く求めたから導くことができたんだよ」
「僕の心が?」
「そうだよ。今だってほら、すずらんの原っぱにいるあの子」
「え? 誰?」
「すずらんの原っぱで道を探している」
「どこどこ?」
「目をつぶって意識を集中してごらん、心の目で見るんだ」
狢は榛色 (はしばみいろ) の丸い目を閉じた。ポトスの葉のような二つの耳にはさまれた脳天が徐々に盛り上がり、アイボリーの柔らかい毛がムックと立った。
「見えた! 女の子だ!」
「今度も難しそうだ」