⑨EGAMI イムフラ
カイゼルは、カーに向け急いで銃を撃つが、触手で弾丸を弾きかわされると、一匹のカーがラムカを背負っているトラゴスに向かい飛び掛かった。
だがその時、物凄い振動と共に、天地が引っ繰り返る。ワニが横転したのか、壁が床へと変わり、皆小さな石ころのように転がった。
イムフラは、横転した状態でワニに何があったのか訊くが返事はない。床に転げ落ちたラムカは意識を取り戻したが、自分が何処に居るのか分からなかった。フランゴが彼女に手を差し出し、その手を掴んで起き上がった時だった。
『助けて、コワイ、小さい物達が……』
誰の声か分からない悲痛な叫びが、頭の中で響いた。ラムカが声の主に訊くと、この建物が語っていた。
ラムカは声を読み取ると、外で野生のカーがワニを攻撃しているようだった。ワニの体は記憶を吸われ、虫に食われた服のように小さな穴が増え、その部分は機能しなくなっていた。
今も徐々に野生のカーが集まり攻撃を受け、自分の意志ではどうする事も出来ず、転げ回るしかないようだった。
イムフラは、ワニに指示を出すが混乱していて届かないようだったので、苦肉の策でワニの体内で栽培しているカーを放出し、野生のカーを追い払う事にした。
ワニの施設内にはいくつもの大きなプラントでカーが栽培されていた。イムフラが笛を吹くと苗木から胡瓜のようにぶら下がった大量のカー達が目覚め、つるを自ら切り離しワニの口を目掛け向かって行く。
ラ・エンカは、トビウオの操縦席から百匹を超えるカーがワニの口へ向け集結しているのが見えたので、イムフラに近付くと上空から叫んで聞いた。
「カーを放って何を考えているー!?」
「口を開けさせカーを放つ」
イムフラが答えるとラ・エンカは続けた。
「このままでは、全滅だ! このワニの主の記憶を解け!!」
イムフラは、解く方法を知っていたら直ぐに解いていたが解く方法を知らなかった。だがイムフラは口を少し開けるくらいなら、ワニも聞いてくれるはずと考え指示を出すが、やはりワニには届かなかった。
ラムカは、ずっとワニに語りかけていた。
『落ち着いて、全て聞こえて来るものを遮断し、自分の心の声に耳を傾けるの』
そう何度も繰り返し語りかけていると、しばらくしてからワニの動きが止まった。