「主に対人関係の勉強をする所です。お互いに対人関係が苦手なもの同士では意味がないと思われるかも知れませんが、精神障がい者ももちろん人間ですから性格が多種多様です。

そこで上手く対応することができれば実社会に出ていってもきっと役立つと思います。あなたには少なくとも精神障がい者の友達が一人は必要でしょう。ほら、『円い町』の町民になるための条件の一つなのだから」

「そうですね。分かりました」

「では、早速主治医にお願いして下さい。きっといい返事を下さると思いますよ」

「ありがとうございます」

晴美は、ソーシャルワーカーさんの親身になって答えてくれる姿勢に深謝するため、立ち上がって一礼した。

「どういたしまして。私はあなたが『円い町』の町民になれることを信じていますよ。何か、困ったことがあればいつでも気軽に相談して下さいね」

ありがたかった。一人の強い味方を得たような気持ちが晴美の胸中を満たしたのである。

翌日、晴美は、精神科の診察を受けた。主治医に『円い町』の町民になりたいこと、そのためにデイケアに通いたいことを話した。岡坂病院では三階でデイケアを行なっていた。

「そうですか。デイケアに通いたいのですね。それはとてもいいことです。『円い町』ですか。まるで理想郷というか桃源郷というか、まあユートピアの世界みたいですね。

私は精神科の医師になって三十年近くなりますが、日本にはそんな町があるんですね。

そういえば思い出しました。以前、医師の間で噂になったことがありますよ。そのとき、私は精神障がい者にとってとても素晴らしい朗報だなと思いました。

しかし、町民になるには、いくつかのとても厳しい条件があるので敬遠する人が多いのではと思っていました。だってそれらの条件は、希望者にとっては大きな『壁』だからです。だが、あなたなら懸命に頑張れば町民になれるような気がします。とにかく、声援を送りますよ。私はあなたの味方です」

「ありがとうございます。先生」

これで家族以外にも味方が二人できた……。晴美はすっかり感動してきた。そして、きっと『円い町』の町民になってやるぞ!という強い決意が身内からふつふつと湧き出てくるのであった。

これでデイケアのことは片付いた。もう一つは健常者との付き合いだ。サークル活動もいいが、晴美は幼い頃から字を書くことが下手で、姉に「もっと綺麗に書けないの」と面と向かってはっきりと言われたことがある。

以来、文字に対して強い劣等感を抱き始めたのだ。と同時に、美しい字を書きたい!という願いも大きく膨らんでいった。

そうだ。この際だ。書道を習おう――。

【前回の記事を読む】移住先の「四つの条件」を晴美は満たしていなかった…。移住のため、努力することを決意