まえがき

1997年2月、5年間の英国勤務の後帰任した部署はデンソーの冷暖房製造2部。ここで、カーヒータ、カーエアコン(HVAC)の製造を担当することになりました。入社以来、現場実習も含めてラジエータ生産技術一筋の自分にとって、新しいチャレンジです。

同時にスタートしたのが、「トヨタ自主研=トヨタ生産方式自主研究会」で、着任時には既に「推進責任者」に決められていました。

実は、ラジエータ生産技術時代に3度、トヨタ自主研を受けていましたがいずれも「改善の実行部隊」であり、決定した改善案を大至急、実行する立場をやってきただけでした。新職場での推進責任者は、毎回の報告会で基本方針、改善推進状況を生産調査部長のHさんに報告して指導を受けることになります。

初回に、活動の目的・目標として「後補充生産をやる」と発表したら、すぐさまHさんから「本当かね?」と聞かれ、ドキッとしました。帰任前にたくさんのスタッフが事前準備してくれていてその路線に乗ったつもりでしたが、自分の腹に落ちていないことを言ってしまったことが見透かされたようで、「しまった」と思いました。

そこで、1か月後の次の報告会まで考え直し、悩み、次のように訂正版を作りました。「仕事の単位を細かくして標準化、平準化し、異常と正常を明確に分けて問題点を見つけやすくすることにより迅速に改善できるクセ(体制)を自律した継続的な活動として定着する」

この時以来、基本的な姿勢で正されることはなくなりましたが、Hさんから「トヨタ生産方式(TPS)を本気でやるか?」と聞かれ、「やります。教えてください!」と言いました。Hさんは「本気でやるなら、エンドレスだぞ!」と言われました。

これが、本書のスタートです。

それまで脇役パートを演じるだけだった自分が、これ以降は主役で1200人を引っ張っていく役となってしまいました。

過去3回のトヨタ自主研は、いずれも時間が経つと対象製品の変化で「崩れて」いってしまいました。だから、今回はなんとしても自分の納得する形で身に付けたいと考えました。